適正経営
利用者、従業員、会社の三者がともに満足
利用者は満足しているが、従業員に不満があったり会社が赤字ではダメです。
一方、会社は黒字だが従業員や利用者に不満があっては、会社は永続きしません。
もっとも、利用者、従業員、会社の三者がともに満足できる状況を作ることは、一般の営利企業と比べると介護事業はサービス価格や内容に自由が制限されているので非常に困難です。
利用者に質の高いサービスを提供するために、賃金が高い優秀な従業員を採用しても、サービス価格を高くすることができないからです。
この難しい三者満足を達成することこそ経営者の役割です。
この経営者の役割を果たしていない人がいかに多いことか。私がいつも感じていることです。
残念ながら日本では、経営を勉強する教育機関が非常に少ないのが現実です。そこで、経営に関する本を読んだりセミナーに参加するなどして積極的に勉強してほしいと思います。
成功している介護事業所があれば、情報を収集して徹底的に真似ることです。そのための時間とお金は惜しんではいけません。まず、真似できそうなものや考え方・価値観が同じものから真似てください。真似るといっても許可なく盗んではいけません。これは当然。
これだけ経営の勉強をしてくださいと言っても、それを実行される方は100人に1人おられるかどうかです。
失礼を承知で申し上げると、介護業界は経営という観点からみると甘い業界だと思います。それだけに経営の勉強をされた方は圧倒的に有利です。
介護業界は、措置の時代から契約の時代と変遷してきました。介護保険制度が始まった頃は質より量が求めらましたが、これからは質が求められる時代です。
その中で生き残れる経営者は、経営の勉強と経験をしっかりしてきた人です。
従業員満足度を高められる経営者であれば、他業種から介護業界に参入しても成功する確率は高いでしょう。かえって、介護の現場で働いてきて介護のことをよくご存知の人より、他業種で経営をしっかりされている人の方がうまくいくかもしれません。
利用者と従業員に対して満足度調査
利用者や従業員の満足度は、アンケートを実施して調査してください。
経営者が想像していたのと異なる結果が出ることがあります.
顧客満足度調査で注意しないといけない点は、匿名でないと利用者やその家族にアンケート調査をしても本音を聞けないことです。
本音を書いたら悪い印象を与えて影響を受けるのではないかという恐怖感から、無難な回答になってしまいます。
アンケートを取る場合は、匿名だけでなく色々工夫する必要があります。
顧客満足度調査の事例
株式会社ニチイ学館
株式会社やさしい手
株式会社ツクイ
従業員満足度調査の事例
株式会社ヘルスケア
介護事業の経営実態
やりかた次第で黒字になる
訪問介護の平均収支差率は0.7%ですが、下の訪問介護収支差率の分布図をご覧ください。一番左がマイナス20%以下で、一番右側がプラス25%以上です。完全に二極分化しています。
一単位当たりの介護報酬の単価は全国一律で、しかも人件費の地域格差は地域単価で調整されている状況で、こんなに二極分化することは通常考えられません。
平成20年度介護事業経営実態調査結果より
この現象は、訪問介護に限ったことではありません。
通所介護の収支差率分布図と居宅介護支援の収支差率分布図をご覧ください。訪問介護と同じ現象が見られます。
以上から言えることは、同じ介護事業でも経営者によって赤字にもなるし、黒字にもなるということです。
介護事業は、「儲からない」というイメージがありますが、そんなことはありません。私の事務所の顧問先で、社長が月給100万円を受け取りながら会社は黒字である介護事業所もあります。やり方次第です。
適正な利益を出すことは経営者の責任
また、介護事業は「儲ける」という考え方になじまないと言われる方もおられます。しかし、赤字を出し続けて倒産すれば、利用者や従業員とその家族に大きな影響を与えます。
適正な利益を出すことは、経営者の責任です。
ここで、適正な利益とは抽象的には「会社を存続させるために必要な額」ということになりますが、具体的には例えば次のような利益があります。1年間で達成すべき利益や数年間かけて達成すべき利益があります。
- 銀行などへの借入金の年間返済額から逆算して計算される必要な利益
- 累積赤字がある場合は、その累積赤字を解消する利益
- 黒字が続いている場合は、過去の推移から算出した利益
- 従業員1人当たり例えば100万円を基準にして算出した利益
- 売上がゼロになっても、従業員に例えば6ヶ月間給料が払える利益
など
ここで、注意しないといけないことは節税対策のために役員報酬を増やした場合です。その場合は役員報酬の一部を必ず別口座に毎月プールし、絶対に生活費として使わないことです。いざ会社が資金不足になったときに、そのプールしておいたお金を出してください。
従業員と経営者との共通認識
一般の営利企業であれば営業することは当たり前です。介護事業も同じです。適正な利益を出そうと思えば、営業しなければなりません。
営業といっても、一般の会社の営業とは随分違います。ケアマネさんに親近感を持ってもらうための営業です。そのためには、1回よりも2回、2回よりよりも3回と会う回数を増やすほど親近感を覚えてもらえるものです。決して押し売り販売の様な営業はしてはいけません。
人に会って親しくなることができれば、営業は大成功です。このように考えると営業も難しいものではありません。
このことを理解してくれる従業員でなければ一緒に仕事をしていてもうまくいきません。
「私は営業するために就職したのではありません」という従業員がいれば、退職してもらいましょう。
面接の段階で「三者満足」と「適正な利益を出すためには営業が大事であること」を説明し、理解してくれる人を採用すべきです。
そして、大事なことは従業員に満足してもらうため色々な工夫をすることです。
たとえば、
- 有給休暇を与える
- 残業はできるだけ少なくする
- 1人ひとりの目標や会社の目標を達成したら給料などに反映する
など待遇を良くすることです。成功している会社を参考にしても良いと思います。
従業員満足度調査を実施して、何が従業員のモチベーションを高めることができるかを確認してください。給料を上げることだけが、モチベーションを高める要素ではないはずです。
そして、従業員に「営業しなさい」と言っても営業するものではありません。営業しなければならない仕組みを作ることです。
1人ひとりの具体的な数字を目標として設定し、それを実行できたか発表する。そして、目標を達成した場合は給料などに反映させることです。
経営計画
介護保険サービスはPDCAサイクル
介護計画は、介護計画の作成 → 介護計画の説明、同意及び交付→サービス提供及び介護記録の作成 → 介護計画の評価・見直し →・・・・・・・というプロセスを繰り返します。
また、ケアマネジメントのプロセスも、アセスメント(情報収集)→ ケアプランの作成 → ケアカンファレンス(サービス担当者会議)の開催 →モニタリング →評価改善 →・・・・・・というプロセスを繰り返します。
以上のように介護保険サービスは、PDCAのサイクルで回っています。
- P(Plan) 計画
- D(Do) 実行
- C(Check) 評価
- A(Act) 改善
経営も同じPDCAサイクル
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